2018年3月8日木曜日

DAZZLEHAIKU20[市川薹子]渡邉美保

 人を呼ぶ手の中にあり蕗の薹  市川薹子

まだ風の冷たい早春の野山で、思いがけなく蕗の薹を発見。その嬉しさには格別のものがある。土中からもたげる萌黄色の花茎は、ふっくらと膨らみ、手に乗せると、自然界から贈られたお雛様の風情がある。待ちかねていた春の訪れを実感させてくれる。
掲句、「人を呼ぶ」から、蕗の薹を見つけた喜びがストレートに伝わってくる。誰かに伝えることで、その喜びはさらに広がっていくようだ。
同行の友を呼ぶ作者の弾む声。一つ見つかると次々に現れる蕗の薹。一緒にしゃがんで摘んでいる明るい光景が目に浮かぶ。「蕗みそに・・」「天麩羅に・・」などの料理談義も聞こえて来そうだ。そして、蕗の薹のほろ苦い味覚の記憶が蘇る。そのほろ苦さがまた春を呼ぶ。人を呼ぶ。
「蕗の薹」という季語のゆるぎない力をしみじみ思う。

〈句集『たう』(ふらんす堂/2017年)所収〉