2017年5月24日水曜日

DAZZLE HAIKU 2 [岡田耕治]渡邉美保



帰らない人たちと居て春の山  岡田耕治


「春の山」というとき、まず明るい日差しや、芽吹く木々、鳥の囀りなどを思い浮かべる。反面、「春の山」という広い空間には、明るい日差しとは別の深い闇も内包されていて、どこか不思議な空気が漂う。

 その春の山に、「帰らない人たち」といる作者。自分の心の中にはいつもいるけれど、もういない人たち。自分の人生に深く関わった大切な人である。いま確かにここに一緒にいる、と実感できる瞬間。「帰らない人たち」の存在感がクローズアップされる。それが春の山の持つ力であり、「居て」という言葉の力ではないだろうか。

この句のシンプルな力強さに惹かれる。

 年齢を重ねていくにつれて、人は「帰らない人」を増やしていく。その感懐の深さが、春の山に呼応しているような気がする。


<句集『日脚』邑書林2017年所収>