2015年11月13日金曜日

黄金をたたく27  [西東三鬼]  / 北川美美



水枕ガバリと寒い海がある  西東三鬼

 出世作、そして三鬼が俳句に開眼した有名句である。読むほどに大胆。三鬼句の魅力は直観の鋭さと予測できない大雑把な感覚表現にあると思う。

 「水枕」と「寒い海」の取り合わせが相当衝撃な上、「ガバリ」が飛びぬけて唐突だ。水が大きな音をたてる擬声音、突然物事が起きる擬態音のどちらにもとれ、どれがどちらでも佳いことのように豪快で大袈裟な感覚が残る。加えてカタカナ表記が蛍光点滅して見えてくる。(初出の京大俳句投句時は「がばり」である。)
  
  リアリズムとはなんぞ葡萄酸つぱけれ (全句集・拾遺)

 三鬼ひいては新興俳句が文学上のリアルについて意欲的に考察した。外来語を多用した三鬼だが、副詞的用法のカタカナ表記が生き生きと臨場感ある表現として効いている句は後世にもまだ掲句のみかもしれない。

三鬼が積極的に関わった「新興俳句運動」は モダニズム、ダダイズム、ニヒリズムとも合流し反伝統を旗印にし、時を越え、蛙が飛び込む水の音さえ「ガバリ」と聞えてくる。

 ウルトラ怪獣として命名されたダダ、ブルトンは三鬼句には登場して来ないにしても掲句はバルタン星人の作句と思える衝撃が今もある。

以上 面115号(2013年4月)から加筆転載
<昭和11 年作の句 『旗』所収 西東三鬼全句集 沖積舎>