2015年9月21日月曜日

処女林をめぐる 7 [古沢太穂]  / 大塚凱



ロシヤ映画みてきて冬のにんじん太し 古沢太穂
太穂は東京外国語学校でロシア語を学んだ学生であった。それだけに、ロシア映画を観る機会も度々あったのだろう。

「太し」の背景にはロシア映画に映るにんじんの「細さ」がある。まだ貧しかった日本。その冬に負けじと、我が国のにんじんの太さが象徴的に立ち上がってくる。それは太穂の心象風景であったと言えよう。「冬の」という措辞は無駄ではない。遠い北方を想像する太穂のこころにとって、眼前のにんじんが「冬」のにんじんであることが切なさを感じさせる。

出典:古沢太穂『三十代』
昭和25年
神奈川県職場俳句協議会刊