2015年8月11日火曜日

人外句境 16 [松本てふこ] / 佐藤りえ



雪女ヘテロの国を凍らせて  松本てふこ

「わたしの雪女」と題された連作からの一句。タイトルおよび〈女による女のための雪女〉〈きみはいつも男のもので雪女〉といった句から、女性同士の恋愛をベースとした作品世界が見えてくる。評者は日本(しかも昭和後期から平成にかけての)にしか暮らしたことがないが、この国にいて息をするように自然に想定される恋愛のカタチ、といえばそれはヘテロセクシャルのことであり、なんなら「ふたり」「つれあい」といっただけで、男女の組み合わせ、または男女の片方を指す、ぐらいにしぶとく浸透しているものである。
 雪女といえば、正体がばれてしまったら「私がその雪女だよ!」と自らカミングアウトしてその場を立ち去らなければならない(且つ、正体を見破った相手の命を奪ってしまうケースもあるらしい)伝承もあるような存在である。そういう存在の不自由さに、LGBTとしての不自由さが掛け合わせとなったら、どれほど困難となるのか。そりゃあ国ごと凍らせたくもなるよねぇ、と雪女の肩の一つも叩きたくなる。
 そのうえでこの一句がせつない読後感を残すのは、二重の意味での共存不可能性がみえるからだ。雪女とそれ以外。ヘテロセクシャルとそれ以外。「て」留めの結句が、しんしんと冷たく降り積もる。
〈「別腹」8号/2015〉