2015年4月16日木曜日

貯金箱を割る日 26 [下楠絵里] / 仮屋賢一



宛先のはらひ大きく燕かな  下楠絵里

 側(ソク)、勒(ロク)、努(ド)、趯(テキ)、策(サク)、掠(リャク)、啄(タク)、磔(タク)。「永字八法」である。それぞれ、点、横画、縦画、はね、右上がりの横画、左はらい、短い左はらい、右はらいで、この順番で「永」の字に現れる。この作品で詠まれている「はらひ」は、最後の右はらい、「磔」だろう。

 漢字の最後の右はらいが大きい。それだけで、どこかスカッとした気分になる。丁度良い塩梅で、力の入れ加減と抜き加減とがバランスを取り合っている。

 でも、それだけじゃあこの句の作者は飽きたらない。それが他でもなく、宛先の文字。誰かに向けて、送られる。そう考えただけで世界は一段と広くなるけど、それだけでなく、いくら「はらひ」が「大き」いとはいえ、それを相手に届けるのだから、それほどおかしなバランスの字にはなっていないのだろう。だからこそ、余計に気持ちが良い。

 これまでに「気持ちの良さ」を押し出してきたが、その一番の決め手は「燕」だろう。「はらひ」の「大き」な「宛先」、でもそれが暑苦しくも目障りでもないのは、「燕」のどこか颯爽としたイメージのお蔭なのかもしれない。送りたい相手に、それも、離れたところにいる相手に、この手紙は投函される。