2015年2月23日月曜日

貯金箱を割る日 18[和田誠] / 仮屋賢一



春光や家なき人も物を干す  和田誠

 物を干すという言葉には、極めて家庭的な響きがある。洗濯物を干すにしても、魚や野菜や果物を干すにしても、何にしても。

 「家なき人」という言葉が堂々と中七にありながらも、読後感は非常に気持ち良い。そこにあるもの全てにいきいきとした輝きを与える春光ではあるが、「春愁」という言葉もある季節、ポジティブさとネガティブさは表裏一体。「春光」と「家なき人」との組み合わせは、ともすれば感傷的になり叙情に流されかねない。でも、この作品においては「物を干す」という措辞によって「何ら特別でない日常生活」という主題が浮かび上がる。特別でない、というのは、当人たちにとって、というのもそうだけれども、この作品の作者自身がそう感じているのだろう。優劣の一切ない、すべて横並びの「生活」として捉えている。「同情するならカネをくれ」(『家なき子』)なんてことは決して言われそうにない。というよりここには「上から目線の同情」(『リーガル・ハイ』)なんてものは存在しない。だから、安心して気持よくこの作品を鑑賞することができるのだろう。

《出典:和田誠『白い嘘』(梧葉出版,2002)》